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稲葉邦彦 美術監督

http://www.inspired.jp/gallery/

静岡県下田市出身。アニメーション美術家・イラストレーター。
主な参加作品は「時をかける少女」「コクリコ坂から」「魔法少女まどか☆マギカ」『松本零士「オズマ」』等。現在、株式会社インスパイアードに所属。
自主製作では空間描写と抽象のミックスをテーマとし、だいじゅCDのイラストや、ARTRIONの総合美術を担当中。

 

ARTRIONの総合美術を担当する

稲葉邦彦よりコラムが届きました。

アートリオンっていう楽器があるんだ。

惑星のようにも見える、へんてこな仕様で、

鳴らし方も音もしょっちゅう変わるんだけど、なんせ良く鳴るっていう評判さ。

気難しく見えて、シンプルな3つの掛け算なんだ。

表現者×お客さん×空間=。

 

昨晩も、準備中に集まってくれた仲間が、1曲ずつ歌い始めてくれたっけ。

瞬間、空気が、音に追従するようにグイッと動き出すような。

まだしっとりした床板に、イスがあっちこっち向いているけど、そいつはちょっと正体を見せてくれた。

楽器の中に居るみたいな感覚。

その楽器の中の空間は、自由に創作していいんだって。 

 

歌うたいと絵かきって似てると思う。

「音と色」で考えたら、

たのしい音とせつない色、硬い音と柔らかい色、あやうい音にうかれた色。 

だいたいどれも共通語みたいなもの。

しかもくっつけたら音色っていう言葉になっちゃうね。

「音楽と絵画」で考えても、

ライブとライブペイント、CDと画集、やっぱり似てる。

「聴覚と視覚」で調べてみると、

反応時間は1.1~1.2倍わずかに聴覚の方が早いけれど、ほとんど同じくらいと言えるみたい。

記憶は人によって、聴覚派と視覚派に分かれ、

記憶の引き出しに、「音」で収納する人と、「見た目」で収納する人、それぞれ。

例えば、「音」で収納した所に、合わせて「見た目」も入れておく、

というように、聴覚と視覚を結びつけると、より長期記憶につながるらしい。

 

そんな関係性があるからか、、

 

2013年、ある夏の日の午後。

昨日までの壁画作業を、携帯画像で振り返りながら、今日も西荻窪へ。

缶ビールを買って、4口目くらいで、先日張り替えられたばかりの、黒い看板が見えてくる。

階段を降りて中に入る。

だいじゅは2本たばこを吸ってから、「また後で」と、パソコンとおにぎりを持って、次の準備へ向かう。

今度は、配布用のフライヤーを抱えたシゲルが、休憩に立ち寄り、ゆっくり、2本目のタバコを吸っている。

2人は今、助走の最終段階。それぞれ個性的な形状をした岩のようだ。

「ごつごつしてて、一色で、中央に水晶を抱えた、でかい丸い岩」と、

「ラメのような素材と幾色かの鉱物、が混じり合った、三角っぽい岩」が、

その日は確か、左上の赤い山あたりに、洋式トイレを設置したあとに、保健所のOKをもらっていたな。

僕は、筆を置いて大きな窓のそばへ行くと、風が入ってきた向こうに、もう階段を駆け上がって行く、シルエット。

僕がそこで絵を描いていた数日が、夜のあんな人や、こんな人の演奏とともに、鮮烈に思い出される。

 

明日の夜には、彼らは、中央のサンゴのようなあたりへ向かっている頃かも。

アートリオンの裏側ってどうなってるんだろう、って。

2つの岩は勢い良く転がり始めた。

もう誰にも止められない。

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