music & events.
ARTRION
西荻窪駅から徒歩1分、音楽好きのみんなが集まれる小さなライブレストラン。
杉並区西荻南3-12-1 日伸西荻プラザB-5 [ADDRESS]
artrion.n@gmail.com [MAIL]
column
witten by
稲葉邦彦 美術監督
http://www.inspired.jp/gallery/
静岡県下田市出身。アニメーション美術家・イラストレーター。
主な参加作品は「時をかける少女」「コクリコ坂から」「魔法少女まどか☆マギカ」『松本零士「オズマ」』等。現在、株式会社インスパイアードに所属。
自主製作では空間描写と抽象のミックスをテーマとし、だいじゅCDのイラストや、ARTRIONの総合美術を担当中。
ARTRIONの総合美術を担当する
稲葉邦彦よりコラムが届きました。
アートリオンっていう楽器があるんだ。
惑星のようにも見える、へんてこな仕様で、
鳴らし方も音もしょっちゅう変わるんだけど、なんせ良く鳴るっていう評判さ。
気難しく見えて、シンプルな3つの掛け算なんだ。
表現者×お客さん×空間=。
昨晩も、準備中に集まってくれた仲間が、1曲ずつ歌い始めてくれたっけ。
瞬間、空気が、音に追従するようにグイッと動き出すような。
まだしっとりした床板に、イスがあっちこっち向いているけど、そいつはちょっと正体を見せてくれた。
楽器の中に居るみたいな感覚。
その楽器の中の空間は、自由に創作していいんだって。
歌うたいと絵かきって似てると思う。
「音と色」で考えたら、
たのしい音とせつない色、硬い音と柔らかい色、あやうい音にうかれた色。
だいたいどれも共通語みたいなもの。
しかもくっつけたら音色っていう言葉になっちゃうね。
「音楽と絵画」で考えても、
ライブとライブペイント、CDと画集、やっぱり似てる。
「聴覚と視覚」で調べてみると、
反応時間は1.1~1.2倍わずかに聴覚の方が早いけれど、ほとんど同じくらいと言えるみたい。
記憶は人によって、聴覚派と視覚派に分かれ、
記憶の引き出しに、「音」で収納する人と、「見た目」で収納する人、それぞれ。
例えば、「音」で収納した所に、合わせて「見た目」も入れておく、
というように、聴覚と視覚を結びつけると、より長期記憶につながるらしい。
そんな関係性があるからか、、
2013年、ある夏の日の午後。
昨日までの壁画作業を、携帯画像で振り返りながら、今日も西荻窪へ。
缶ビールを買って、4口目くらいで、先日張り替えられたばかりの、黒い看板が見えてくる。
階段を降りて中に入る。
だいじゅは2本たばこを吸ってから、「また後で」と、パソコンとおにぎりを持って、次の準備へ向かう。
今度は、配布用のフライヤーを抱えたシゲルが、休憩に立ち寄り、ゆっくり、2本目のタバコを吸っている。
2人は今、助走の最終段階。それぞれ個性的な形状をした岩のようだ。
「ごつごつしてて、一色で、中央に水晶を抱えた、でかい丸い岩」と、
「ラメのような素材と幾色かの鉱物、が混じり合った、三角っぽい岩」が、
その日は確か、左上の赤い山あたりに、洋式トイレを設置したあとに、保健所のOKをもらっていたな。
僕は、筆を置いて大きな窓のそばへ行くと、風が入ってきた向こうに、もう階段を駆け上がって行く、シルエット。
僕がそこで絵を描いていた数日が、夜のあんな人や、こんな人の演奏とともに、鮮烈に思い出される。
明日の夜には、彼らは、中央のサンゴのようなあたりへ向かっている頃かも。
アートリオンの裏側ってどうなってるんだろう、って。
2つの岩は勢い良く転がり始めた。
もう誰にも止められない。